過去の不倫を思い出したとき、「今さら慰謝料を請求することはできないのでは」と感じたことはありませんか。何年も前の出来事であっても、知った時期や状況によっては、法的に請求が認められるケースもあります。もちろん、すべてが対象になるわけではなく、時効や証拠の有無によって判断は大きく分かれます。この記事では、数年前の不倫に対する慰謝料請求が可能となる条件や、実際の判断基準に目を向けていきます。
過去の不倫を思い出したとき、「今さら慰謝料を請求することはできないのでは」と感じたことはありませんか。何年も前の出来事であっても、知った時期や状況によっては、法的に請求が認められるケースもあります。もちろん、すべてが対象になるわけではなく、時効や証拠の有無によって判断は大きく分かれます。この記事では、数年前の不倫に対する慰謝料請求が可能となる条件や、実際の判断基準に目を向けていきます。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律相談に代わるものではありません。時効の成立や起算点の判断は、個々の事情によって大きく異なります。実際のケースについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。また、本記事の内容はあくまで一般的な法律知識の説明であり、すべての状況に当てはまるわけではありません。
ある日、配偶者のスマホを見て、5年前の不倫の証拠を発見した。あるいは、離婚して数年経ってから、実は当時配偶者が不倫していたことを知った。
このような場合、今から慰謝料を請求することはできるのでしょうか。「もう時効だから無理」と諦める前に、知っておくべき法律的な仕組みがあります。
この記事では、不倫の慰謝料請求における時効の考え方と、「知った日」の解釈について解説していきます。
民法上の時効規定
不貞行為に基づく慰謝料請求権は、民法724条に定める不法行為に基づく損害賠償請求権です。2020年の民法改正により、時効期間は以下のように定められています。
「損害及び加害者を知った時から3年間」
この「知った時」がいつなのかが、実務上最も重要な争点になります。
除斥期間の20年
また、同じ条文には「不法行為の時から20年」という期間も定められています。旧法上、この20年の期間は、損害や加害者を知らなくても経過により権利が当然に消滅するものとして、「除斥期間」と解されてきました。
しかし、改正民法724条では、この期間についても「時効によって消滅する」と明記され、現行法上は消滅時効として整理されています。
つまり、どんなに遅く知ったとしても、不倫があってから20年を超えれば請求は難しくなると考えられます。
「知った時」の解釈が鍵
5年前の不倫について今から請求できるかどうかは、「知った時」がいつなのかによって決まります。5年前に不倫があったとしても、それを知ったのが最近であり、かつ、離婚協議時の合意内容(清算条項や財産分与)等の事情によっては、まだ3年は経過していないとして、時効は成立していないと判断される可能性があります。

「損害及び加害者を知った時」の意味
法律上、時効が進行し始めるのは「損害及び加害者を知った時」です。これは、請求の相手ごとに、以下のように解釈されています。
配偶者に対する請求については、配偶者が不貞行為をしていたという事実を知った時点で、「損害及び加害者を知った時」に当たると評価され得ます。
一方で、不貞相手に対する請求については、その相手が誰であるかを特定できた時点が、「加害者を知った時」と解されています。
したがって、不貞相手に対する慰謝料請求については、損害の発生を知っていても、相手を特定できていない段階では、時効は進行しないと考えられています。
「薄々感じていた」では不十分
重要なのは、確実に知ったという時点です。「なんとなく怪しいと思っていた」「浮気しているかもしれないと疑っていた」という程度では、「知った」とは認められない可能性が高いでしょう。
確実な証拠を見た、本人が認めた、など、明確に認識した時点が「知った時」になると考えられます。
不倫相手を特定できた時
配偶者が不倫していることは知っていても、相手が誰かわからなければ、時効は進行しないとされています。例えば、「誰かと浮気している」ことは5年前に知っていたが、相手の名前や連絡先を知ったのは最近、という場合、「知った時」は最近になります。
証拠を発見した時
実務上、以下のようなタイミングが「知った時」と認められることが多いようです。
スマホやパソコンで不倫の証拠となるメッセージや写真を発見した時(もっとも、ロック解除やアカウントへの無断ログイン、クラウドメール等への不正なアクセスによって証拠を取得することは、プライバシー侵害や不正アクセス禁止法等の問題となる可能性があります。)
違法な方法での証拠収集は行わず、証拠収集の方法については、事前に弁護士に相談することが望ましいでしょう。
探偵の調査報告書を受け取った時
配偶者が不倫を認めて謝罪した時
不倫相手から連絡があり、関係を知った時
第三者から不倫の事実を告げられた時(もっとも、第三者からの情報については、その具体性や信頼性、ならびにその後の本人の確認行動の有無等によって評価が分かれます。一般論として「知った時」と判断されることもありますが、直ちに時効の起算点になるとは限りません。)
これらの時点から3年以内であれば、不倫自体が何年前であっても、請求できる可能性があります。
慰謝料を請求すると、相手から「もっと前から知っていたはずだ」と反論されることがあります。
立証責任は相手側にある
時効が成立していると主張する側(請求される側)に、「もっと前から知っていた」ことを証明する責任があるとされています。もっとも、実務上は、請求する側(原告)にも、「いつ損害及び加害者を知ったのか」について、具体的事実に即して主張・立証する負担があるとされています。
そして、双方の主張や提出された証拠、周辺事情を踏まえて、最終的に「いつ知っていたのか」を判断するのは裁判所です。
そのため、請求する側が単に「この日に初めて知った」と主張するだけでは足りず、裁判所がそれ以前に知っていたと推認すれば、時効の成立が認められる可能性もあります。
「知っていたはず」の根拠
相手が「もっと前から知っていたはず」と主張する根拠としては、以下のようなものが考えられます。
当時、配偶者を問い詰めたメールやLINEの記録がある
友人や家族に「浮気されている」と相談していた記録がある
探偵に調査を依頼した時期が何年も前である
不倫相手と直接会って話をした記録がある
このような証拠がある場合、「その時点で知っていた」と認定される可能性があります。
「疑い」と「確信」の違い
ただし、「疑っていた」だけでは「知っていた」とは認められない可能性があります。友人に「もしかしたら浮気しているかも」と相談していたとしても、それは確実に知っていたわけではないという主張は可能でしょう。
一方で、「間違いなく浮気している。相手は〇〇さんだ」と具体的に話していたのであれば、その時点で知っていたと認定される可能性が高くなります。
離婚してから、元配偶者の不倫を知ったというケースも少なくありません。
離婚時に知らなかった不倫は請求できる
離婚協議や調停の際、不倫の事実を知らずに離婚した場合、その後に不倫を知った時点から3年間は慰謝料請求ができると考えられています。例えば、5年前に離婚したが、最近になって当時配偶者が不倫していたことを知った。
この場合、離婚から5年経っていても、知ったのが最近であれば、まだ時効は成立していない可能性があります。
離婚協議書の「清算条項」に注意
ただし、離婚時に作成した離婚協議書に「清算条項」が入っている場合は注意が必要です。清算条項とは、「本協議書に定めるもののほか、当事者間には何らの債権債務がないことを確認する」といった文言です。
この条項がある場合、後から不倫が発覚しても請求できないという解釈もあり得ます。ただし、「離婚時に知らなかった不倫については清算条項の対象外」という見解もあり、ケースバイケースで判断されるようです。
財産分与との関係
離婚時に財産分与を受けていた場合、その中に慰謝料的な要素も含まれていたと解釈されることがあります。特に、法律で定められた額以上の財産分与を受けていた場合、その差額は慰謝料として支払われたものとみなされる可能性があります。
このような事情がある場合、後から追加で慰謝料請求することは難しくなるかもしれません。
時効の中断(更新)という制度
時効は、一定の行為によって中断(2020年民法改正後は「更新」と呼ばれます)することができます。時効が更新されると、それまでの期間がリセットされ、新たに3年間の時効期間が始まります。
裁判を起こせば時効は更新される
最も確実な方法は、裁判を起こすことです。訴訟を提起すれば、その時点で時効は更新されます。時効完成まで残り数日しかない、という場合でも、期限内に訴状を裁判所に提出すれば、時効の完成を阻止できます。
催告による6ヶ月の猶予
内容証明郵便で慰謝料を請求する「催告」を行うと、6ヶ月間だけ時効の完成が猶予されます。例えば、時効完成まで残り1ヶ月という時点で催告すれば、そこから6ヶ月間の猶予が得られます。
ただし、この6ヶ月以内に裁判を起こさなければ、猶予期間が終了した時点で時効が完成してしまいます。催告は時間を稼ぐ手段であり、最終的には裁判を起こす必要があることに注意が必要です。
承認による時効の更新
相手が債務を「承認」すると、時効は更新されます。承認とは、相手が「慰謝料を支払う義務がある」ことを認めることです。例えば、示談交渉の中で「100万円なら支払います」と相手が提案してきた場合、これは債務を承認したことになり、時効が更新される可能性があります。
ただし、承認があったことを証明できるように、メールやLINEなど記録に残る形でやり取りすることが重要です。

不倫の慰謝料請求を考えている方に、時効に関する実務的なアドバイスをお伝えします。
早めの行動が重要
時効の計算は複雑で、「いつから3年なのか」の判断は難しいことがあります。「まだ時効まで余裕がある」と思っていても、裁判所が「知った時」を早い時点と認定すれば、時効が成立してしまう可能性があります。不倫を知ったら、できるだけ早く弁護士に相談し、行動を起こすことをお勧めします。
証拠の保存が不可欠
「いつ知ったか」を証明するためには、証拠が重要です。不倫の証拠を発見した日付がわかるように、スクリーンショットには日時が表示されるようにする、メールの受信日時を確認する、などの工夫が必要です。また、「それより前には知らなかった」ことを証明するために、それまでのメールやLINEのやり取りなども保存しておくとよいでしょう。
時効完成が近い場合の対応
もし時効完成が近いと思われる場合は、すぐに弁護士に相談してください。状況によっては、急いで訴訟を提起する必要があるかもしれません。時効完成後に相談に来ても、対応できることは限られてしまいます。
相手に時効を気づかせない
交渉の初期段階において、必ずしもこちらから「時効が迫っている」ことを相手に積極的に伝える必要があるとは限りません。実務上、相手が時効の問題に気づいていない場合に、示談交渉を進めるという判断が取られることもあります。もっとも、時効制度の趣旨や、特に相手方が無代理人である場合の弁護士倫理への配慮も踏まえる必要があります。
また、時効完成が本当に迫っている場合には、交渉に固執せず、訴訟提起も含めた対応を検討する必要があります。いずれにしても、時効の見込みや交渉方針については、個別の事情に応じて、弁護士と十分に相談した上で判断することが重要です。
5年前、あるいはそれ以上前の不倫であっても、慰謝料請求を諦める必要はありません。重要なのは、「不倫があった時」ではなく、「不倫を知った時」です。知ったのが最近であれば、まだ時効は成立していない可能性が高いでしょう。
ただし、時効の判断は非常に専門的で、個別の事情によって結論が大きく変わります。「もう時効だから」と自己判断で諦める前に、必ず弁護士に相談してください。
不倫の問題は、法律的にも感情的にも複雑です。信頼できる弁護士に相談することで、最善の道が見えてくるはずです。
時効という制度はありますが、それで泣き寝入りする必要はありません。適切な対応を取れば、権利を守ることができる可能性は十分にあります。